大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(行コ)10号 判決 1988年7月27日

控訴人

社会福祉法人恩賜財団済生会

右代表者理事

長澤泰治

右訴訟代理人弁護士

成富安信

中町誠

中山慈夫

被控訴人

中央労働委員会

右代表者会長

石川吉右衞門

右指定代理人

渡部吉隆

村田勝

小嶋健

井上礼子

被控訴人補助参加人

全済生会労働組合

右代表者中央執行委員長

口羽素臣

被控訴人補助参加人

全済生会労働組合中央病院支部

右代表者執行委員長

西村馨

右補助参加人両名訴訟代理人弁護士

嶋田喜久雄

右当事者間の不当労働行為救済命令取消請求控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は参加によって生じた分を含めて控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人代理人は「現判決中控訴人に関する部分を取り消す。被控訴人が中労委昭和五二年(不再)第二五号不当労働行為救済命令再審査申立事件について昭和五四年一二月五日付をもってした命令を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人及び補助参加人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人及び補助参加人ら代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上及び法律上の主張は、原判決一三枚目裏一行目の「事情ない」を「事情がない」に、一九枚目裏一〇行目の「組台員」を「組合員」に、二三枚目表四行目の「若くは」を「若しくは」に、二五枚目裏三行目の「全組合」を「全組合員」に訂正し、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

1  控訴人支部東京都済生会中央病院(以下「中央病院」という)を名宛人とする命令部分の解釈について

(一) 本件命令の当事者の表示及びその救済命令(本件命令は初審命令―都労委昭和五〇年(不)第六一号―を維持しているので、具体的には初審命令の仲裁命令部分)は、いずれも控訴人と共に中央病院を名宛人としており、控訴人即中央病院とは形式上、文理上も解釈し得ない。しかも、被控訴人は、本件命令中の「当委員会の判断」において、中央病院を実質的にも命令の相手方たる責任主体と認めているのである。したがって、本件命令においては、形式的にも実質的にも、中央病院が控訴人と区別された独立の責任主体として名宛人となっていることは、明白である。

(二) ところが、中央病院が控訴人の組織の一施設にすぎず、法律上独立した権利・義務の主体とはなり得ないので、労働組合法二七条及び七条にいう「使用者」に該当しないものであるとすれば、行政処分の理論からしても、行政処分対象者がその処分内容を実現することが不能となる故に無効となるのである。本件の場合は既に本来の名宛人たる控訴人に対する命令がなされているのであるから、さらに中央病院を名宛人とする二重の命令を重ねているわけで、この点で、明白かつ重大な瑕疵があるものとして、中央病院を名宛人とする命令部分は、取り消されるべきものである。

(三) そうであるのに、一種の無効行為の転換理論を用いて、中央病院即控訴人とする解釈を採り右命令部分を控訴人に対する命令として有効視することはできない。不当労働行為制度は、労働委員会の命令を刑事罰をもって強制する仕組みとなっているから、罪刑法定主義の大原則よりすれば、命令対象者及び命令内容は一義的に明確でなければならないことは多言を要しないところである。したがって、本件命令の如き、形式的にも又実質的にも控訴人と中央病院の二者を各独立した「使用者」として取り扱う誤った命令に対しては、無効行為の転換類似の解釈(これは一種の類推ないし拡張解釈である)で、本件命令をそのまま有効視することは、罪刑法定主義の大原則を没却する許されざる解釈である。

2  チェック・オフの中止について

(一) 労働基準法二四条は書面性の要件以外に「当該事業所の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表とする者」との協定を要件としている。これは、労働者の過半数を超える団体意思を尊重し、労働者の保護を図ることを趣旨とするものである。ところが、本件の支部組合は控訴人の事業場たる中央病院の労働者の過半数で組織する労働組合ではない。即ち、初審の結審時の中央病院の労働者は約五〇〇名で、支部組合員はそのうち約一二〇名にすぎないから、この点で支部組合はチェック・オフの協定の当事者適格さえ有しない。この当事者要件の趣旨は前記の如く、全労働者の過半数の団体意思を尊重する点にあるのであるから、チェック・オフを受ける少数組合の団結の保護を理由に、その違法性が阻却される筋合ではない。本件のチェック・オフはこの点で同条違反たること明白である。したがって、控訴人において違法状態のままなされていたチェック・オフを中止することは違法行為の是正であって、何ら非難されるいわれはないのである。

(二) 本件チェック・オフは合意に基づかないで事実上なされてきたものである。仮に書面によらないチェック・オフの合意があったとしても、これは期間の定めのないまま継続されてきたものであるから、労働組合法一五条二項、三項に準じて九〇日前の予告により適法に解約できるものである。

控訴人は昭和五〇年五月二四日からチェック・オフを中止したが、その行為は支部組合に対するチェック・オフの慣行ないし合意の解約の予告を伴うものとみるべきであるから、右のチェック・オフの慣行ないし合意は、チェック・オフを中止した右同日から九〇日を経過した時点で適法に消滅しているといわなければならない。

したがって、本件命令において被控訴人が将来にわたってチェック・オフの継続を命じているのは、裁量権の範囲を逸脱するものであって、この点に関する本件命令は取り消されるべきである。

(補助参加人らの主張)

控訴人はチェック・オフが労働基準法二四条違反であると主張するが、チェック・オフと右規定とは関係がない。なぜならば、右規定による協定は有効に成立すれば全労働者に対して効力を生ずるのに反して、チェック・オフ協定はそもそも当該組合若しくは組合員にだけ効力を生ずべく締結されるものであって労働協約としての性格を持つものだからである。労働基準法二四条は個別労働者の労働条件の保護を目的とするのに反し、チェック・オフは労働組合の団結権の保障を目的とするものであって、その性格は全く異なっている。

また、控訴人は仮にチェック・オフを労働協約としてみた場合であっても、労働組合法一五条二項、三項に準じて九〇日前の予告により右の慣行ないし合意を適法に解約できるものであり、本件のチェック・オフの中止は解約の予告とみることができると主張する。しかしながら、不当労働行為制度と民法上あるいは労働組合法上の適法性とは関係がない。民法、労働組合法上適法だから不当労働行為にならないということではないのである。

三 証拠の関係は、本件記録中の原審及び当審の各書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

当裁判所も控訴人の本件請求を棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加、訂正するほかは、原判決理由第二に説示のとおりであるから、これを引用する。

原判決三〇枚目表七行目の「いわさるを」を「いわざるを」に、同裏八行目の「最高判決」を「最高裁判決」に、四一枚目表四行目の「れ乙」を「れる乙」に、五〇枚目表七行目及び五一枚目表一〇行目の各「斉藤倫子」を「斉田倫子」に、五五枚目表三行目の「第一頃」を「第一項」に、同七行目の「解答」を「回答」に、五六枚目表六行目の「金額」を「全額」に、同裏五行目の「帰与」を「寄与」にそれぞれ訂正する。

原判決三〇枚目裏八行目の次に行を変えて次のとおり加える。

「控訴人は、不当労働行為制度は、労働委員会の命令を刑事罰をもって強制する仕組みとなっているから、罪刑法定主義の大原則よりすれば、命令対象者及び命令内容は一義的に明確でなければならないところ、本件命令の如き、形式的にも又実質的にも控訴人と中央病院の二者を独立した「使用者」として取り扱う誤った命令をそのまま有効視することは、罪刑法定主義の大原則を没却することになると主張するが、本件の場合は、前示のとおり、不当労働行為によって生じた状態を回復すべき公法上の義務を負担し、確定した救済命令を履行しないときに制裁を受けるべき不当労働行為の責任主体としての「使用者」は、控訴人のほかにはないのであるから、名宛人の記載の誤りがあっても、全くの別人格の二者を名宛人とした場合とは異なり、制裁を受けるべき実質的な命令対象者はおのずから定まるものであり、したがって、中央病院を名宛人とする命令部分を控訴人に対するものと解しても、何ら罪刑法定主義に反することにはならないというべきである。控訴人の右主張は理由がない。」

原判決三二枚目表六行目末尾に「なお、当審における証人加藤雄二の証言によっても右認定を左右するに足りない。」を、三四枚目裏六行目の「時間に」の次に「さし迫った」をそれぞれ加える。

原判決五八枚目表八行目の次に行を変えて次のとおり加える。

「控訴人は、労働基準法二四条は書面性の要件以外に「当該事業所の労働者の過半数で組織する労働組合があるときは、その労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者」との協定を要件としているところ、支部組合はこの点で当事者適格さえ有していないから、本件チェック・オフが右規定に反することは明白であり、したがって、チェック・オフを中止したことは何ら違法でないと主張するが、仮に初審の結審時の中央病院の労働者数及び支部組合員数が控訴人主張のとおりであったとしても、前示の従前の経過と当時の事情のもとでは、そのことは、控訴人が突然一方的にチェック・オフを中止し、再開を拒絶することを何ら正当化するものではないから、本件チェック・オフの中止が、支部組合の混乱に乗じて支部組合を財政的に弱体化させることを目的としたものであり、支部組合及び全済労の運営に対する支配介入であるとの前示の判断を左右するものではない。

さらに、控訴人は、本件のチェック・オフの慣行ないし合意は期間の定めのないものであるから、控訴人がチェック・オフを中止したことによって、その後九〇日を経た日に解約により消滅しており、したがって、本件命令がその現状回復を命ずるのは裁量権の逸脱であると主張するが、前示のとおり、控訴人は、支部組合の組合員の脱退による混乱を理由に一時的に中止するが、対象者が明確になれば再開することもあるとしていたのであるから、この中止をもって全面的、確定的にその慣行ないし合意を解消する旨の意思表示であるとは認め難い。のみならず、それがなされた時期、態様等により、前示のとおり、控訴人のしたチェック・オフの中止は、支部組合の混乱に乗じて支部組合を財政的に弱体化させることを目的としてしたものであって、不当労働行為にあたるものであるから、たとえ、そのチェック・オフの慣行ないし合意がいずれは解消されるものであるとしても、一旦は現状に回復させるのが不当労働行為の救済制度の趣旨、目的にかなうものというべきである。したがって、この現状回復を命じた被控訴人に裁量権の範囲を超えた違法があるとはいえない。

控訴人の右主張はいずれも理由がない。」

そうすると、原判決は相当であって本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却し、控訴費用(参加によって生じた分を含む)の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条本文、九四条後段、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 枇杷田泰助 裁判官 喜多村治雄 裁判官 小林亘)

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